インテリジェンス基礎理論(第1回)
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更新日:43 分前
執筆者:上田 篤盛
インフォメーションとインテリジェンスの差異
『広辞苑』で「情報」を調べてみる。
そこには、「あることがらについての知らせ、判断を下したりするために必要な知識」と書かれている。
実は、この定義には二つの異なる意味が含まれている。一つは「知らせ」という意味のインフォメーション(Information)、もう一つは「判断を下したりするために必要な知識」という意味のインテリジェンス(Intelligence)である。
本来、この二つは異なる概念である。しかし、戦後の日本では、どちらも「情報」と翻訳されてきた。その結果、インテリジェンスという概念が十分に理解されないまま今日に至ったと、私は考える。
そこで、最初にインフォメーション(以下、本連載では情報と呼称)とインテリジェンスの違いを明確にしておきたい。
情報とは、インテリジェンスを作成するための生材料である。新聞やテレビで報じられるニュースは、その代表例だ。一方、インテリジェンスとは、政策決定者や経営者などの意思決定者に役立つよう、情報を専門的に処理・分析して得られた知識である。
たとえば、「隣国の軍隊が国境付近に展開している」という情報から、「侵攻準備を進めている可能性が高い」とのインテリジェンスを作成し、防衛行動を取ることになる。
ひとつの情報からも複数のインテリジェンスが生まれる
最近のニュースから、インテリジェンスの意味を考えてみたい。
7月上旬、米国のトランプ大統領は、イランの核関連施設に対する軍事攻撃を実施した。
このニュースは、テレビやインターネットを通じて世界中に報じられた。
しかし、この一つの情報から導き出される判断・行動は、人によって異なる。安全保障の専門家は、「攻撃対象や規模からみれば限定的な軍事行動であり、全面戦争へ発展する可能性は高くない」と分析するかもしれない。エネルギー業界の担当者は、「ホルムズ海峡の緊張が高まれば、原油価格や海上輸送コストが上昇する可能性がある」と考えるだろう。
製造業の経営者は、「原材料価格の上昇が利益を圧迫する」と判断し、調達先の見直しを検討するかもしれない。一方、株式投資家は、「防衛関連株やエネルギー関連株が買われる一方、燃料コストの高い製造などの業種は影響を受ける」と考え、保有銘柄の見直しを行うだろう。
このように、一つの情報を、それぞれの立場や目的に応じて加工し、判断や行動に役立つ知識へ高めたものがインテリジェンスなのである。
なぜ今、企業にインテリジェンスが必要なのか
インテリジェンスは、もともと国家安全保障の分野で発展してきた概念だが、現在では企業経営にも広く応用されている。企業経営を支援するビジネス・インテリジェンス(Business Intelligence)、競合企業の動向を分析するコンペティティブ・インテリジェンス(Competitive Intelligence)、サイバー攻撃の脅威を分析するスレット・インテリジェンス(Threat Intelligence)などが、その代表例である。
今日の企業は、競合企業との競争だけでなく、地政学リスク、経済安全保障、サプライチェーンの分断、AIの急速な進展など、国家レベルの環境変化にも向き合わなければならない。企業経営と国家安全保障との境界は急速に曖昧になりつつある。そのような時代において、ビジネスパーソンがインテリジェンス理論を身に付ける意義は、ますます大きくなっている。
本連載では、国家安全保障の世界で培われたインテリジェンス理論を基礎に、企業の意思決定に役立つ考え方を解説する。
情報をどのように読み解き、どのように判断へ結び付けるのか。
最新のニュースや身近な事例を題材に、その基礎理論を順を追って学んでいきたい。(つづく)


