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第1回 企業インテリジェンス(総論)

  • 1 日前
  • 読了時間: 3分

執筆者:稲村 悠


諜報の記憶──「ウラ」に属する営み

 「インテリジェンス」という語からまず連想されるのは、スパイによる諜報の世界だろう。その原型は、日本の歴史のなかにも見いだせる。戦国の世に「乱波・透波(らっぱ・すっぱ)」と称された忍びの者たちは、行商人や町人を装って敵方の内情を探った。兵力で大きく劣ると目されながら、織田信長が奇襲で今川義元を討った桶狭間の合戦(1560年)でも、信長方の忍びが義元の動きを事前に嗅ぎ取っていたことが勝敗を分けたと語り継がれている。時代が下った二度の世界大戦においても、電波の傍受をはじめとする諜報が戦局の裏側で機能した。これらはいずれも、表に出ることのない「ウラ」の営みにほかならない。



リスクに備える「オモテ」のインテリジェンス

 これに対し、企業が営むインテリジェンスは「オモテ」の領域に属する。日本の企業社会でも、その必要性が語られる機会が増えてきた。念頭にあるのは、想定されるリスクへの備えである。なかでも関心の的となっているのが、経済安全保障をめぐるリスクだ。2017年の第一次トランプ政権発足を境に米中の摩擦が深まり、日本企業は半導体の供給難に直面した。コロナ禍では、マスクひとつ国内で確保できない現実に直面し、供給網を他国に頼ることの危うさを痛感させられた。米中の関係が短期に好転する兆しは乏しく、これらは一時的な波乱では済まされない。


 続いて、地政学リスクである。特定地域の政治的・軍事的・社会的な緊張が波及して生じるこの種のリスクは、いまや日本企業が織り込まざるを得ない要素となった。ロシアによるウクライナ侵攻、そして大規模な武力衝突が続くパレスチナ情勢が、その代表例である。戦後で最も不安定とも評される国際環境のもと、地政学リスクは一過性ではなく常態として企業にのしかかっている。



「使えるのか」という問いの正体

 こうしたリスクへの対処として、社内にインテリジェンスの体制を設ける企業が国内でも現れ始めた。もっとも、導入した側の本音は「これは本当に役立つのか」という懐疑に近いかもしれない。


 ツールを駆使してリスク情報を拾う担当者がいる。それを社内へ回覧する担当者がいる。受け取る経営層や管理職、社員もいる。誰もが重要性を口にしながら、実際には情報を眺めて何となく判断し、上からの指示で惰性的に処理し、受け手も流し読みで片づける。そんな実態が透けて見える。「これを続けて何の意味があるのか」という思いを抱く人は、決して珍しくないだろう。



インテリジェンスとは「示唆と打ち手を導く知」

 インテリジェンスを使いこなす第一歩は、その概念を正確につかむことにある。ではインテリジェンスとは何か。私はこれを「示唆と打ち手を導く知」と定義している。それは単なる「情報」とは異なるものだ。たとえば、あるアパレルの通販サイトが、直近1年間のアクセスと購買のデータを分析したとしよう。平日は仕事帰りの時間帯に閲覧と注文が集中し、週末には家族向けの商品がよく動く。ここまでは、サイトが抱える「事実」や「傾向」を整理したにすぎない。だが、そこから「平日の夜にタイムセールを仕掛け、帰宅後の購買を後押しする」「週末に向けて家族向けのまとめ買い提案を打ち出す」といった手立てを引き出せば、話は変わる。これがインテリジェンスである。手元の情報に対して「では、どう動くべきか」と問い返すのが「示唆」であり、その先の具体的な打ち手までを導く知。それこそがインテリジェンスなのだ。


〔次回へ〕日々のニュースは、どの瞬間にインテリジェンスへと姿を変えるのか。あわせて、日本語の「情報」という語がはらむ落とし穴を解きほぐす。






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