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第2回 企業インテリジェンス(インテリジェンス・サイクルの企業実装)

17 時間前
読了時間: 3分

執筆者:稲村 悠


ニュースがインテリジェンスに変わる瞬間

 テレビや新聞、インターネットで日々流れるニュースも、扱い方しだいでインテリジェンスへと転じる。たとえば2021年3月、大型のコンテナ船がスエズ運河で座礁し、1週間近くにわたって航路を塞いだ出来事があった。多くの視聴者にとっては数あるニュースの一つでしかない。だが、その運河を物流の動脈とする企業にとっては話が別だ。自社の調達や納期にどんな打撃が及ぶのかを、インテリジェンス部門は直ちに読み解かねばならない。その分析から、いま何をすべきかという「示唆」と「打ち手」が立ち上がる。経営者が判断を下せる水準まで練り上げられたとき、一つのニュースはインテリジェンスへと昇華する。



「情報」と「インテリジェンス」を切り分ける

 ここで、日本語の「情報」という言葉に注意を促しておきたい。英語のinformationは、状況や人物、出来事に関する事実や詳細を指す。ところが日本語の「情報」は、それだけにとどまらない。『広辞苑』には「あることがらについての知らせ」に加えて、「判断を下したり行動を起こしたりするために必要な、種々の媒体を介しての知識」という語義が載る。後者には、すでに「示唆」の色合いがにじむ。混同を避けるため、本連載では「情報」を英語のinformationに寄せて示唆を含まないものとして扱い、インテリジェンスとは切り離して論じていく。



羅針盤としてのインテリジェンス・サイクル

 概念を押さえたら、次に理解すべきは「インテリジェンス・サイクル」である。これは、戦略の立案や課題の解決に向けて、組織の上層が「情報要求」=課題を的確に定めてインテリジェンスの生成を指示し、その答えとなるものを探り当てていく一連の流れを指す。得られたインテリジェンスを分析し、次の生成へとフィードバックする。この循環を回し続けることで、対応の精度は上がっていく。生かせる場面は、リスクを防ぐ「守り」だけにとどまらない。新規事業の創出など、戦略を前に進める「攻め」にも威力を発揮する。


 日本でも、経済安全保障などへの対応でこの発想を取り入れる企業はある。それでも重要性が今ひとつ浸透しないのは、サイクルの本質が正しく知られていないからだ、と痛感している。経営企画の現場でも似た営みは動いているが、その値打ちを十分に咀嚼しきれていないように映る。取締役会に助言を行うあるコンサルタントも、率直にこう述べる。「経営企画などで日常的に営まれている情報の収集・分析・提供は、ある意味でインテリジェンス・サイクルが目指すものそのものであり、わざわざこの言葉を持ち出すことに違和感を覚える人も少なくないだろう。ただ、そうした日常業務でこぼれ落ちがちなのが〝適切な情報要求〟という視点であり、普段の仕事の質を押し上げる思考の枠組みを与える点にこそ、その意義があるのではないか」と。


 私はもう一歩踏み込みたい。この「情報要求の適正化」に、「情報の効果的な収集と分析」「継続的な評価とフィードバック」という厳密な工程管理が組み合わさることで、経営の意思は輪郭を得る。曖昧だった意思決定の道筋、コミュニケーションの経路、そして情報過多に立ち向かう処理の手順が整理され、ぼんやりとしていた判断の像がくっきりと結ばれる。正しく理解して根づかせれば、従来以上に組織の胆力が養われ、組織的なリスクは抑えられ、迅速かつ的確な意思決定を支える枠組みとして働く。だからこそ、何が要で、どこに詰まりが生じうるのかを見定めたうえで実装すべきなのだ。本連載では、この「戦略を実現するためのインテリジェンス・サイクル」を、土台から順に解きほぐしていく。



〔次回へ〕そのサイクルは、具体的にどのような仕組みで動くのか。五つの工程に沿って、順にほどいていく。






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