経済安全保障の基礎知識(第3回)
執筆者:藤谷 昌敏
1.はじめに
経済安全保障の基礎知識(第2回)では、なぜ各国が経済安全保障に力をいれるようになったのか、その背景について説明した。3回目の今回は、日本における経済安全保障の基本的枠組みについてお話ししたい。
2.経済安全保障の基本的枠組み
(1)特定重要物資のサプライチェーンの確保
政府は、特定重要物資を「国民の生存に必要不可欠な物資」「広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資」「供給途絶の蓋然性があり、外部依存度が高い物資」「供給途絶時に代替が困難で、国家経済に重大な影響を与える物資」と定義している。
この制度で指定されている主な重要物資は、16種類に及ぶ。
分類 | 主な物資 | 主なリスク |
生命・医療基盤 | 抗菌性物質製剤、人工呼吸器 | 医療崩壊、中国依存 |
食料・農業基盤 | 肥料 | ほぼ全量輸入、食料安全保障 |
エネルギー・資源 | LNG、重要鉱物 | ほぼ全量輸入、地政学リスク |
産業基盤・製造装置 | 永久磁石、工作機械、航空機部品、 船舶部品、ロケット部品 | 軍民両用、原材料依存 |
先端技術・デジタル基盤 | 半導体、蓄電池、先端電子部品、 クラウド、人工衛星、無人航空機 | 技術覇権、軍民融合、台湾有事 |
(2)基幹インフラの安全性確保
基幹インフラの安全性確保とは、経済安全保障推進法に基づき、電力・通信・金融・鉄道など「止まれば国家が機能不全になるインフラ」について、外国からの妨害行為(サイバー攻撃・バックドア・遠隔操作など)を防ぐため、設備導入や維持管理を国が事前審査する制度である。これは日本の経済安全保障政策の中核であり、2026年には医療分野も追加された。
(3)先端重要技術の研究開発支援
日本が国家として不可欠な先端技術を保護(Protection)し、育成(Promotion)するために、政府が官民連携で研究開発を強力に支援する制度群の総称を指す。中心となる仕組みは K Program(経済安全保障重要技術育成プログラム) と 特定重要技術の研究開発支援制度の2本柱である。量子、AI、半導体、宇宙、バイオなど、国家競争力の源泉となる技術を官民連携で支援する。
(4)特許出願の非公開制度
経済安全保障推進法(2024年施行)に基づき、国家安全保障上「公開しては危険な発明」について、特許出願を公開せず、特許手続を一時停止し、発明内容の開示・実施を禁止する制度である。目的は 機微技術の国外流出防止であり、特許庁による第一次審査、内閣府による保全審査という二段階の審査が行われる。
(5)経済安保海外事業促進制度(OESA)
この経済安保海外事業促進制度(OESA:Overseas Economic Security Arrangement)とは、2026年の経済安全保障推進法改正で新設された制度で、「日本の経済安全保障上重要だが、採算性の不確実性から民間投資が進まない海外事業」を政府とJBIC(国際協力銀行)が官民一体で支援する仕組みである。
3.おわりに
経済安全保障は、国家安全保障(軍事を含む)と経済政策、技術戦略、企業経営が融合する新しい政策領域である。日本は、特定重要物資、基幹インフラ、先端技術、特許非公開、海外事業リスク管理という制度を整備し、国際的にもG7・QUAD・日米欧協力など多層で多様な枠組みを構築しているのである。
以上


