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経済安全保障の基礎知識(第4回)

3 時間前
読了時間: 3分

執筆者:藤谷 昌敏


1.はしがき

 経済安全保障の基礎知識(第3回)では、日本の経済安全保障の基本的枠組みについて説明した。第4回の今回は、経済安全保障を考えるうえで重要な「経済的威圧」について説明したい。

 グローバリゼーションの進展によって、世界各国は貿易、投資、資源、技術などを通じて密接に結びつくようになった。こうした経済的相互依存は、各国に経済的利益をもたらす一方、国家間の対立が生じた場合には、相手国に圧力を加える手段として利用されることがある。特に、特定国への経済依存度が高い場合、その国が輸出入を制限するだけで、相手国の産業や国民生活に深刻な影響を与える可能性がある。これが経済安全保障上の大きな問題となっている。



2.経済的威圧とは

 経済的威圧(Economic Coercion)とは、ある国家が貿易、投資、資源供給、金融などの経済的手段を利用し、他国の政策や外交上の判断を自国に有利な方向へ変更させようとする行為をいう。

 具体的には、輸出入の制限、関税の引き上げ、重要資源の供給停止、企業への取引制限、観光や人的交流の制限などが挙げられる。

 経済制裁との違いは、経済的威圧が相手国の意思決定に圧力を加える行為を指すのに対し、経済制裁は国際法違反への対応や安全保障上の目的など、さまざまな理由で実施される点にある。経済的威圧の本質は、経済的な依存関係を政治的な支配力や外交上の影響力に転換することにある。



3.経済的威圧の具体的事例

(1)中国によるレアアース輸出規制

 2010年、尖閣諸島周辺で発生した中国漁船衝突事件を契機として、日中関係が悪化した。この際、中国から日本へのレアアース輸出に支障が生じ、日本の産業界に大きな不安が広がった。

レアアースは、自動車、電子機器、産業用モーターなどに不可欠な重要資源である。中国は世界のレアアース供給に大きな影響力を持っており、日本の中国依存が安全保障上の弱点となることが明らかになった。こうした中国のレアアース規制は2010年に事実上始まり、2014年に制度化され、2025–2026年に現在の厳格な輸出管理体制に移行した。


(2)中国によるオーストラリアへの貿易制限

 2020年、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する独立調査を求めるなどして中国との関係が悪化すると、中国はオーストラリア産の大麦、ワインなどに高関税を課し、石炭などの輸入にも制限が生じた。

 中国側は貿易上の正当な措置と説明したが、オーストラリア政府は政治的動機による経済的圧力だと批判した。その後、大麦への追加関税は2023年、ワインへの追加関税は2024年に撤廃された。この事例は、巨大市場への依存が外交上の弱点となり得ることを示している。



4.日本に求められる経済的威圧への対応

 日本は、エネルギーや重要鉱物の多くを海外から輸入し、製造業も国際的なサプライチェーンに依存している。そのため、経済的威圧を受けた場合、企業活動だけでなく国民生活にも影響が及ぶ可能性がある。

 対策として重要なのは、第一に、輸入先や輸出市場を分散し、特定国への過度な依存を減らすことである。第二に、重要物資の国内生産、備蓄、代替技術の開発を進めることである。第三に、国際協力を通じて経済的威圧に共同で対処することである。

 本来、経済的相互依存は、国家間の協力と繁栄を促進するものである。しかし、その依存関係が一方的な政治的圧力に利用されることがあれば、国家の自主的な政策判断が制約される危険性がある。経済安全保障の目的は、外国との経済関係を断絶することではなく、自由貿易の利益を維持しながら、過度な依存による脆弱性を減らし、国家としての自主性を確保することである。



以上



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