インテリジェンス基礎理論(第3回)
執筆者:上田 篤盛
何を知るべきかを決める―インテリジェンス・サイクルと情報要求
インテリジェンス・サイクルとは何か
情報活動は、思いつくままに情報を集め、分析する活動ではない。一般に、情報要求→収集→処理→分析・作成→配布→意思決定という一連の流れによって行われる。これを「インテリジェンス・サイクル」という。
まず、意思決定者が「何を知る必要があるのか」という情報要求を示す。それに基づいて必要な情報を収集し、分類・整理などの処理を行い、分析してインテリジェンスを作成する。それを意思決定者へ提供し、政策や経営判断に役立てる。そして、情勢の変化や意思決定によって新たに知るべきことが生じれば、次の情報要求が出される。
ここで重要なのは、サイクルの出発点となる情報要求である。何を知りたいのかが曖昧であれば、どれほど大量の情報を集めても、意思決定に役立つインテリジェンスにはならない。
情報活動は「何を知るべきか」から始まる
最近のニュースから考えてみよう。
8月に公表された中国の貿易統計によると、7月の中国から日本へのレアアース磁石の輸出量は111トンとなり、前年同月から52.2%減少した。また、高性能磁石などに使用されるジスプロシウム酸化物は9か月連続、テルビウム酸化物は8か月連続で日本向け輸出が途絶えている。
これは日本企業にとって重要な情報であるが、このニュースを知っただけでは経営判断はできない。
自社が使用するレアアースのうち、中国にどの程度依存しているのか。現在の在庫でどの程度の期間、生産を継続できるのか。日本向けの輸出減少はなぜ起きているのか。今後も続くのか。代替調達先はあるのか。調達先を変更する場合、どの程度の時間と費用が必要なのか。さらに、供給不足は自社の生産や収益にどのような影響を及ぼすのか。
こうした「何を知る必要があるのか」を明確にすることが情報要求である。これが明確になれば、収集すべき情報が決まり、どのような情報源を使うべきかも見えてくる。
情報要求をめぐる「鶏と卵」
インテリジェンスの世界では、情報要求をめぐって、以前からひとつの問題がある。
意思決定者は、何を知るべきかを明確にしなければ適切な情報要求を出せない。一方、情報担当者も、意思決定者が何を判断しようとしているのかが分からなければ、必要なインテリジェンスを作れないというものだ。これは、「鶏と卵」の問題と呼ばれている。
この問題は、情報量が飛躍的に増大し、情勢変化が速く、企業が直面する問題も複雑になった今日、さらに重要になっている。
そこで近年では、意思決定者と情報担当者が、情報要求の段階だけでなく、収集、処理、分析、作成など、インテリジェンス・サイクルの全過程で問題意識を共有することが重視されている。
北岡元は『ネクスト・インテリジェンス』において、政策部門と情報部門が問題意識を共有し、従来の上下関係や分業を見直す必要性を提唱している。情報部門が一方的にインテリジェンスを作成して政策部門へ渡すのではなく、双方が継続的に関わるという考え方である。
企業では、さらに多くの部門や社員が情報活動に関わる。『企業インテリジェンス』の著者である稲村悠は、全社員が情報活動に関与し、多層的かつ螺旋的に小さなサイクルを回しながら、部門横断的に知識を共有する「アメーバ型インテリジェンス・サイクル」を提唱している。
従来のインテリジェンス・サイクルが不要になったわけではない。その基本を理解したうえで、経営者と情報担当者、さらに各部門が「何を知る必要があるのか」を共有し、問いを修正しながらサイクルを回すことが、現代の情報活動には求められているのである。 (つづく)


